文字で語る音語

音で物語を創るボカロPが文章を書くブログです

#ボカコレ2020冬 オススメ曲29撰 ~2020という一年間と、その上で奏される音楽性について~

The VOCALOID Collection 2020 Winter、皆様、お疲れさまでした。

今回の、2020年12月11日から3日間に渡ってニコニコ動画上で開かれた、ボカロ音楽に焦点を当てた本イベント、
本当に良い意味で下から上までをミキサーにかけてくれるような良いイベントだったなあと思います。

2020年という時節上、どうしても「コロナを契機にしたネット上での企画」で語られてしまうのは仕方ないですが、
仮にそれがなかったとしても、初音ミク10周年を超えてそろそろ界隈の規模が色々な意味で制御可能なレベルを超えた大きさに成長し、徐々に悪い意味での硬直化や断片化も見えてきたように思っていたので、
こういうイベントは、自分は思いつかなかったけど本当に(コロナなんぞなかったとしても、むしろ無かったら尚更)必要とされているものだったと思えます。

黎明期から日本のネット創作カルチャーの中心的なインフラの一つを担ってきたniconicoだからできることだし、
そういう意味で、次のボカコレが本当に楽しみです。

というわけで、自分もボカコレ、参加させていただいたのですが、
それを踏まえてボカコレに投稿された楽曲でオススメ楽曲の29撰を作ってみました。

仮にもSound Stories by tkってサークル名で活動しているので、順番に聞くとどことなくストーリーが匂う順番にもしている(かもしれません。)
するつもりはなかったのですが、結果的になりました。
こんなところでまで作家性を出すなwと思わなくもないのですが、どうかお許しください。

 

memo 

罪状

まあ、まずは自分の曲なんですけどw聞いてくれ。

息苦しいまでの疾走感と、ノイジーにヘビーなギターロックのサウンド+シンセの合いの手、短調の直球なコード進行。それらの全てが痛切なエモーションをぐいぐい主張してきます。
あと歌詞。

サビ2回し目のあとのダブステップによる間奏は必見。

 

じゃあ君の思想が死ねばいい

諦念が他人への攻撃性にまで転嫁したようなギターサウンド
諧謔的にジャジーなピアノのパッセージ。
V Flowerという音源の声質で歌う歌詞。
エッジの立ったオケ。
トータルパッケージとしては極めて抑制的でお洒落にすら聞こえるサウンド

これが2020年です。

 

心分廃達

エレクトロスイングのグルーブ感を基底に、ピアノ、初音ミクのグロウル調声などによる刺すような音作りが絶妙なダークさを演出しています。
「エレクトロスイング」と言ったけど、個人的には後者の音作りのダークさの醸す作家性のほうが強く感じた。

「2020年のボカロのメインシーンはエレクトロスイングの年」と言われています。
けれど、こういう"ジャンルの技法を消化しきって作家性のために使い込んでいる"ような曲が現れるのを見ると、エレクトロスイングも一つのブームからボカロ曲の表現技法の1つに溶け込んできたなあとそう思う。
そういう意味で、来年のボカロ曲のトレンドを占う最前線の曲になると良いなって思いました。必聴。

 

spawn

ギターのカッティングが天才。
ジャジー諧謔性、ギターのサウンドメイク、お洒落なダンサブルさが、トータルとしては心地よく聴けるポップスとしてまとまっています。

V flowerって本当にいい声してるな。

 

五月雨プロローグ

アイドルポップロックじゃんって曲調なわりに歌詞が少しダーク。
けど、ラスサビの歌詞で納得されるかと思います。

4分間に起承転結をすべて込める密度感は楽しいの一言です。

 

......よしもない

ミニマリズム的に繰り返す音の作り方に、ささやくようなミクの歌わせ方(或いは喋らせ方)、そして歌詞の言葉の選びに、作家性、思想が現れていて好きです。

諦念の刃物で人を刺すような歌詞を書いているのは、他人にそれを否定してほしいからって勝手ながら思ってしまう(それを自分に重ねる)のですが、そんな歌詞観が上記のミニマリズム的なサウンドメイクで際立っています。大好きです。

 

キザミ

アンビエントと言うより前衛的な音作り。
調性感が程よく行方不明になる音作り、そこにボカロ早口歌唱などボカロ的な技法が合わさることで、複雑なことしてるのに非常に聞き心地が良い。(現代音楽得意な人、厳密な意味でのアナリーゼしてくれ^~~~~~)

ただ、何より言いたいのは、そういった技術的な部分が、作者の表現したい内容の上での必然感を持ってまとめられている点。大好きです。

 

Hold Me Tight

クラップ音が印象的なダンスミュージックなのです。
ただ、聴き込んでみるとラップとかEDMとかの様々な技法がごく自然に溶け込んでいる感じ。

メロディよりもグルーブ感で聴かせてくる楽曲なのですが、とはいえメロディの聴き心地も良い。そのうえで一番優先度の高いであろうグルーブ感は最高のクオリティなので、もう本当クラブで聞いて踊りたい曲ですね。

 

魔法の星がくれたもの

み、ミクノポップ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!って冒頭の時点で最高になりますね。

そのうえでいわゆる「ミクイメソン」的な祝祭的でテクノポップサウンドよりも、寝るときに聞き込みたいようなしっとりした音になっている。
なので、どちらかと言うとバーカウンターでお酒飲みながら聞きたい曲です。いや、布団でも聞きたいな。

 

Simulator

非常に正統的に2010~11年的、要はwowaka的な音作りの高速ボカロックです。
(作家さん本人自身、彼のことが本当に好きという談でした)

俗に「wowakaっぽい」って言われる表現様式は、ただなぞるだけだと一瞬でアンノウン・マザーグースの歌詞で言う「ドッペルもどき」或いはそれ以下になってしまい只々ダサくなってしまうのですが、
そんな中で本当に久々に「自分がこう書きたいから結果的にこう(wowakaっぽい様式を多分に取り入れた)言う曲ができた」って音楽を聞けて本当に嬉しいです。

 

神様も知らない

疾走感のあるドラムの音作り、切なく訴えかけるギターとボーカルワークが本当に魅力的。
例えるならはるまきごはんの宇宙的な、透明感のあるサウンドなのですが、それにミクの歌わせ方が存外グロウルなども混ぜてきて凶暴で、そこのギャップが非常に魅力的です。

 

チャイナブルーは眠らない

「D、DJ^~~~~~~~~~~~~!!!早くこの曲をかけてくれ!!!!」とでも叫びたくなる楽曲です。

懐かしい感じの未来的なサウンド(シンセの音作りにドラムのグルーブ感)で無限に横乗りをしてしまう中、Aメロのラップ歌唱とかサビの叙情性がめちゃくちゃ刺さります。
技術的な面もとても凝っているのですが、そんなのどうでも良くなって語彙力が解ける方向の楽曲ですね。いいぞこれ。踊れ。

 

クサメタルじゃん。最高?最高!!!!!

クサく聴けるメタルって基本メロスピとか最速のBPMが多いですが、この曲はミドルテンポ。
それ故にメロディとオケの細部に込められたエモが訴えたけてきます。

て言うかサビに三連符の譜割りをブチ込んで来るの最高。ヲタク、メタルを聞け。

 

君と見た世界

王道のバンドサウンド・ポップス。王道のバンドサウンド・ポップスです。

ギターサウンド、ストリングスの対旋律、夜の中で君がいるから生きていけると歌う切ないけど前向きな歌詞。
こういう音楽からしか摂取できない栄養素というのは確かに存在するのですが、そういう音楽です。

最近のボカロ曲、どころか邦楽全般。ボカロの影響を受けてか、どこか「世間へのカウンター」を超えて「自他全ての善性すら猜疑、否、善性の定義がそもそも判らん」が基底にある曲が増えているように見えます。
けれども、それでもやっぱりこういう王道なラブソングっていうのは価値があるんですよ。

 

Divided

初音ミクと、初音ミクのデュエットです。
「は?」って思った皆さん。聴きましょう。納得できます。

そもそもですが、「feat.初音ミク初音ミク」って文字の選び方が自覚的でずるいですよね。

上で「最近のボカロ曲、(中略)曲が増えているように見えます。」と書きましたが、この曲はまさに「自他全ての善性すら猜疑、否、善性の定義がそもそも判らん」っていう音楽です。
初音ミクっていう`機械`がこういう歌詞を歌うことに価値がある。

「善性の定義がそもそも判らん」からこそ、自分の感情が最後に残る。
そんなこの曲を、「夜の中で君がいるから生きていけると歌う切ないけど前向きな歌詞」の次に載せたいと思います。

 

ずっと哀に溺れてるんだ

Future House!!!!!

クラブミュージックの中でも、EDMみたいにドンツクしてない、しっとりした音楽が大好きです。けどしっかり踊れる。けれどどこかメロディアス。

別にメロディだけ抜き出してもそこまで凝った旋律線じゃないんですけど、それでも叙情的に感じるのは、シンセの音の重ね方とコード進行の妙なんだろうなと思います。
ボーカルの大人っぽい雰囲気も好き。SynthV Sakiってこんなリアルな歌い方できるんだな。

おしゃエモなFutureサウンドです。

 

シイクレット・フィル

まさに今年!!!!!という雰囲気のサウンドの楽曲です。
エレクトロスイングなボカロ曲!!!

ミキシング時に楽器のもともとの音からエッジだけを切り取ったようなピアノの音作り。(リリースカットピアノっていうみたいですね。DTMやってるのに今まで知りませんでした。)
初音ミクの機械性を強調する調声。
どことなく諧謔的なメロディとコード進行の妙。

こういうのって、あるいはAyaseの音楽性にも通じるように見えるのですが、ほんとうに21世紀最初のクォータ(25年間)最後の5年間のポップ音楽の結節点というほかないと思います。

極めて高い完成度。聞け。

 

思考アンロック

「21世紀最初のクォータ(25年間)最後の5年間のポップ音楽の結節点」という形容をこの曲にも使いたいと思います。

こっちはピアノ音源ではなくエレピの音の使い方がとても印象的。
ピアノじゃなくてエレピを使うことで、「どことなく微温的な優しさがある。なのに痛切」というアンビバレントが感じさせられます。
ピアノの音を加工するとこうはならない(エッジが尖りすぎて攻撃的になってしまう)。

メインのオケがフェードアウトしたあとに残るエレピの和音って終わらせ方も天才的ですね。良い曲です。

 

パラダイムシフト

バンドサウンドだーーーーーーーーーー。

「ボカロの」じゃない、ポップスとして古くからある王道なギターロックのサウンド、リフ作りに初音ミクの高域のボーカル音声が套なっています。

最初に「古くからある王道」と書きましたが、それなのに現代的に聞こえるのは、ミキシングの妙と、何よりメロディのエモーションの緩急がとてもうまいからなのだと思います。(あと、よくよく聞くとやっぱ旋律線は現代的)

聞き入る。

 

オワリノセカイ

ギターロックってやっぱり「良い」んですよね。
サビがクサくて本当に良い。コード進行・メロディワーク・ギターの音のうねり方、全てが「王道」にぶん殴ってきます。

ロックです。

 

バッド・ゲイザー

天才の仕事しかできんのか?????

冒頭のギターサウンドの時点の一瞬でメッチャクチャに引き込んでくるギター。
V flowerの意外と子供っぽいけどアイロニックで”刺さる”声質。
後景に存在しながらサウンドの方向性のコアに位置しているジャジーなピアノ。
それら全てが、完全に感情を訴えかけてきます。

それなのに大味じゃなくて、あくまで抑制された中から確実に感情を伝えてくるのが、本当に時代の最前線だなと思いますね。

あと、動画サイトだから当たり前なんですけど、動画がいいんですよね。聴けるし見れる。本当に良い。

 

青色が怖くなったんだ

エモーションが襲ってきます。

Flowerにしては大人っぽい音作りなのですが、そんなFlowerが歌う言葉。はぁーーーーーー(語彙力が消える)
この感情を切ないとか簡単な言葉で言いたくない。

動画と相まって、感情の芯から心の「どこか」を揺らがせてきます。必聴。

 

モザイク

全身が感情になるギターバラードです。

歌詞が比喩的で、しかも直喩じゃないので本当に含意の塊なんですけど、だからこそ無限に解釈可能な多態性とそれでも揺らがない芯にある感情が同居しています。
ただただ「感情」で聴くべき音楽。

ギターのサウンドメイクが徹底して良いので聴きましょう。

 

TRAVELLERS

初音ミク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

2012年、2017年を彷彿とさせるような「初音ミクのイメージソング」です。
初音ミクが「自分を肯定しなよ」って歌う歌詞を歌うと本当にしんどくなるんですけど、そのしんどさを超えた先にあるポップロックからしか摂取できない栄養素というものが存在するので聴きましょう。

ギター・ピアノ・初音ミクの声という諸要素が、極めて高クオリティな「バンドサウンドポップロック」として結実しています。
正直言って39、Tell Your World、ODDS&ENDS、グリーンライツ・セレナーデといったド名曲と並ぶぞ。

 

Unimagined

ミクノポップ~~~~~~~~~~~~~~~!!!
初音ミク文脈~~~~~~~~~~~~~~!!!

BPM130は、まだ癌には効かないが、そのうち効くようになる。
シンセの音の作り方も、間奏のシンセソロも、何よりミクの歌い方も、歌詞もすべてが良いです。
ミクノポップはいいぞ。

 

シグレカスケード

サムネの初音ミクが最高なんですけど、初音ミクの歌だと思います。
(Tokyoの町並みと、それに溶け込むSFちっくな衣装の電子の歌姫、さいこうじゃないですか?)

BPM130くらいの歩く速さのスピード感、音のポップさ、どこか心のなかにある厭世観、それを踏まえた上で読み込むほどに歌詞が染み込んでいきます。

「こんな2020年だけど、別の2020年にも悲しいことはたくさんあって、それでも僕ら歩いていくんだ」って気持ち。

 

Secret Passage

Chilltrapです。
Twinfieldさんが描くChilltrapです。

他の人が「奇跡」なんて言葉を歌詞に使ったら「クッサ」って思う。
なのにTwinfieldさんが「奇跡」と初音ミクに歌わせると俺は涙を流す。
それがTwinfieldさんのChilltrapなんですよね。

雪のような音楽性に、秘められた熱い感情の言葉が存在しているのでみんな聴きましょう。そしてDROPで踊れ。

 

花散るひと

「君も随分落ち着いた様子になったな。」
そんな落ち着いた様子で、けど正直に感情を語ってくれる。そんな音楽です。

大人になった、そんな抑制された言葉選びで語る感情が、心に沁みこみます。

 

始まりの0ページ

バラード。バラードの魅力全てを3分ちょっとに込めたような、そんな音楽です。

人がバラードを聴いて感動するツボを的確に、全部乗せで押してきます。
酸いも甘いも、醜いも美しいも、すべての感情をエモーションと呼ぼう(それはそう←)

2020年、それでも前を向きましょう。歩いていきましょう。

 

あとがき

ボカコレについて雑感

聴けばわかると思うのですが、本当にクオリティが高い。
3桁再生前半の楽曲に至るまでこのクオリティってやばくないですか??

今回のボカコレ、本当に良かったのって、こういう中堅どころのボカロPもめっちゃ良い曲書くんだぞという事実を、お祭りという楽しさを伴いながら伝えられたという部分だと思っています。
こんなこと口で言ったって「ふーん」で終わりますが、お祭り騒ぎの楽しさで口コミが飛び交うと途端に実感が伴う。

2017年以降のボカロシーンを振り返ると、本当にありがたいことに登竜門の間口は広く、健全にバズって有名になってデビューしていく新しいボカロPはたくさんいたものの、一方で、だからこそ「有名になるまでのフロー」みたいなのがどんどんと固定化されてきたことは否めないように思います。

それ自体は否定するものでもないのですが、けれどやっぱり完全にそれだけだと苦しいもので、今回のボカコレは本当にそこらへんの雰囲気作り──「競争」と「全体にライトが当たる平等さ」のバランスが上手かった。
であるがゆえに、最近の流行りのノリも、ニッチなボカロ曲も、古き良きニコ動ネタ曲のノリも全部が楽しめるコンテンツとして浮かび上がってくれたと強く思います。

ありがとうございます。

 

昨今のボカロ曲の方向性、或いはそれを書く作家性について雑感

一方で今年のボカロ曲の方向性についても、かなり明確に見えたなあと思います。

ジャンルだったり、技術的な面はいまさらとして、今年のボカロ曲を一言で言うなら
「たじろぐほど明確に後ろ向き(諦念、自他への嫌悪、攻撃性etc.)、それを隠そうともしていないのにトータルの音は洒脱極まるというアンビバレンツ」というものだと思います。

そこらへんの原因について、まあ第一にはコロナ禍の諸々が加速させたのは間違いないのですが、去年以前から(なんならn-bunaとかの頃かから、5~6年前からずっと)あったものでした。

だから、きっと、2020年、こんな地獄みたいに波乱の一年になってなかったとしても ──ここまで攻撃的な音楽が流行るようにはならなかっただろうけど── 、こんな自分の苦しさをそのまま込めるような音楽は ──お祭り騒ぎの祝祭的な世間の裏で── 生まれていたと思うのです。

だからこそ、自分も、音楽を書く以上は、それを描きつつ、その先に手を伸ばせないかと考える。
自分の懊悩焦慮と、それを踏まえた上での「救い」みたいな何かを求めてしまう。

******

そんな意図を込めて今回のマイリスト、
自分の楽曲から始めつつ、「始まりの0ページ」という非常に素晴らしいバラードに帰着する選曲で選ばさせていただきました。

今後も、ボカロ界隈、良い曲が生まれ続けますようにと願いを込めて

fin.