文字で語る音語

音で物語を創るボカロPが文章を書くブログです

ボカライフ公募セトリと、tkから見た2021年の合成音声音楽の世界

あけましておめでとうございます。
めちゃめちゃ久々のBlog更新となりました。

年も明けたので、DJミックスの解説を通して去年の合成音声音楽の振り返りを書きます。

DJミックスを録ったきっかけは「ボカライフ」というDJイベントの公募への提出。
本イベントは、「間近の一年間のVOCALOID」にテーマを絞ったDJイベントです。年々界隈が広がり多種多様になりゆく合成音声音楽ですが、その「音楽」という側面をDJさんごとのいろいろな視点から総括できる、めちゃめちゃ面白いイベントです。

というわけで、tkの提出してセトリはこちら。
タイトルは「合成音声楽器と音楽的同位体、歌う`こと`の自己同一性 ~identity~ について」


目次


このセトリで表現したかったこと

2021年に起きたことのうち、自分は2つの側面を深堀りしました。

  • 「音楽的同位体 可不のキャラクター性」
  • 「Degital Starsの盛り上がりなどで益々の発展を遂げたボカロエレクトロ」

セトリはこんなかんじ。
「音楽的同位体というバーチャル・シンガーのドッペルゲンガー的存在から、純然たる音声合成楽器としての存在に移り変わるまで」が本セトリの骨格のストーリーとなります。

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ボカライフ2021公募枠、tkの提出セトリ。

 可不はバーチャル・シンガー花譜の表裏一体の音源としての出自ゆえ、そもそも花譜の存在と対比されて扱われる運命にあります。

 同時に、それが合成音声楽器として用いられる以上、初音ミクを始めとした各楽器と同様に「持ち主の作成した楽曲を、その楽曲が`どんな感情に類するものだとしても`、歌手の感情──お気持ち──を差し挟まず歌を歌う」という側面を持っています。──たとえばワカバさんの作詞作曲の名曲Convenient Singerにて明快に描かれているように──

 以上の全く異なる2つの側面が両立して内在している点が、可不という楽器・キャラクターの特異な点と、私は思いました。あるいはそれは、バーチャルボカロリスナー御丹宮くるみさんに対するUTAU音源の音風ヰクルなど、バーチャルなキャラクターをベースに作成された音源全般に共通する点といったほうが正確かもしれないです。

 だからこそ、本セットリストを組むにあたって、私は「この2つの側面を音楽で説明できれば面白いのではないか?」と考えました。それがこのセットリストのテーマです。花譜のドッペルゲンガーとしての可不が、21年の楽曲を歌っていく中で「呪いさえ歌ってきたこの声(引用:「Convinience singer」歌詞)」へと変わっていく過程。そのために対比として用いるのは、後者の代表、「フィクションの権化(引用:「2019年版ボーカロイド音楽の世界」より、左手さんの原稿「フィクションの権化、VOCALOID」のタイトルから)」たる初音ミクの音楽を用いつつ──

 

 音楽的同位体ドッペルゲンガー、歌を歌う楽器、ヒトの音楽を歌うということ、ヒトの音声とVOCALOIDの音声とAI合成音声楽器の音声、それ`ら`の使い方……
そんな意味合いを楽しんでくださると幸いです。

 

ちなみにボカロエレクトロがメインなのは、僕がボカロエレクトロが好きだからです。

 

各楽曲の選んだ理由

Google ドライブって画像ファイルにコメントを付けれるのですが、公募提出時にお渡ししたセトリ画像に付けていたコメントをそのまま貼ろうと思います。

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アウトブレイク~私のドッペルゲンガー

音楽的同位体……花譜のクローンであり、初音ミクVOCALOIDという確立された技術に対する後発の存在・・・・・・

アウトブレイクって間奏前のCメロにて、ミクからクロスフェードするような形で可不が入ります。なので、そこから「私のドッペルゲンガー」に繋げることで、可不という存在を花譜だけじゃなくてミクにも対比される存在として描けないかなって含意があります。

 

群青

前向きに、衒いなく、率直に爽やかに、けど"そうじゃないことからも逃げずに"「創作の初期衝動」を描いた楽曲。
MIKUNOYOASOBIって21年年始リリースなんですよね。。。期せずして年末の紅白でも歌われ、一年の最初と最後を飾っている件について。

 

Sweety glitch(KOTONOHOUSE Remix)~光芒パラノイア

デジスタ!!!!!ボカロエレクトロ!!!!!
2021年は現地DJイベントが極めて難しい局面だったにもかかわらず、或いはだからこそボカロエレクトロがCFM、クリエイター問わず、今までとは異なるいろんな動きが花開いた年だったと思います。

 

社会距離

40mPのジャズ要素。オシャレにトラッドに。40mPって実は、保守本流のジャズをポップスの中に埋め込むのが一番上手いボカロPの一人だと思います。(エレクトロスウィングは「保守本流」とはまた違う派。)
21年の世相を踏まえた、光芒パラノイアの歌詞と同じものを別ベクトルから眺めた歌詞。その「ベクトルの違い」に、可不のキャラ性を感じ取ってほしい。

 

ロミオとシンデレラ

一曲だけ、リリース年度が全然2021年じゃない曲をやります。
超歌舞伎の表題曲。「アイに、生きる。」
離れ離れでも想い合う感情を描く歌を、社会距離へのアンサーにしようかなって。

ちなみに、21年リリースじゃないのを逆手に取って、ここでMCしようと思ってました。

「え~、1曲だけ21年リリースじゃない曲をやらせてください。けど、今年ほんとに大切な使われ方をした曲なので。御伽噺に、戀の姿を──!!」
`あたしのこーいーをー 悲劇の~~`

 

フォニイ

「この世で造花より綺麗な花は無いわ?」
造花が可不だとしたら、それでは生花ははたして誰?

"可不でこの曲は外せないでしょ?"な一曲をここで。21年の代表曲なので絶対曲被りしそうですが、可不文脈でセトリを組む以上外せない一曲。

 

Orca (tekalu Remix) ~ミューム、やっと会えたね

ボカロエレクトロ!!!!その2
いくつか21年以前リリース曲も含まれているのですが、RemixがCD収録でリリースされたのは21年です!!! BPM170でFutureサウンドの良さを煮詰めていきましょう。

Orca (tekalu Remix) →Lent Lilyは、おなじtekaluさんの音作りなので合わないはずがないんですが、その上でOrcaのいるかアイスさんのミクの声とLent Lilyの可不の声がマッシュアップ気味に被さる部分がめっちゃお気に入りです。

 

あの空を超えて

るぽさんの貴重なバンドサウンド。「合成音声楽器」についての結論パートです。
ミクがⅠ×3→Ⅶ×1→Ⅴ×4って下降音列の音符を歌うとどうしてもkzさんの"歴史を彩った"ドアンセムを思い浮かべるのは、まさか自分だけ?

人の作った音楽を歌うことが、彼ら彼女らのidentity。

 

白鯨

ボカコレ!!!!!!!!!! 可不のキャラ曲じゃなくて、その作家の作家性で書いた曲を、「ここ」で。

るぽさんのアンセムでエモくなったしエンディングじゃと思ったじゃろ。すまん、もう少しだけ続くんじゃ。可不は合成音声楽器なんだし、花譜じゃなくてボカロPのこと見ててほしいんですよね(エゴと業を込めながら)

 

水面下

ボーカロイドと歌ってみた」。
大沼パセリさんと可不のデュエットなんですけど、二人の声が合わさってると、歌詞も相まってほんと「ラブソング」ですよね。

合成音声楽器。人間。歌。人が歌を作って歌うということ。 その技術が、「一つのターニングポイントに達した」2021年…なんてパートです。

(正確には、ボーカロイドと歌ってみたが顕在化したのって21年というより20年。cat napの注目度が上がったのが影響大きいと思うのですけど、なんならピノキオピーはずっと昔から続けているし、そこらへんはもうわかんないっすよ)

 

Hello,world!~ステラ(Leo/need×初音ミク

水面下の「人間とボーカロイド」文脈の延長で、プロセカ文脈もいれつつ大団円。

可不と人間のおしゃれなデュエットも、Leo/needとミクのバンドサウンドも、それぞれ尊い。この前「藤原基央、年々描く音が優しくなっている」ってツイートをふと聞いたのですが、藤原基央もじんも、本当に描く音が言葉が優しいんだよなって思います。 この情勢下で最終的には前向きに居れること、それは本当に難しいことだけれど、それでもやっぱり尊いことなんじゃないかって、そう思うのです。 

 

最後に

タイトルの「歌う`こと`の自己同一性」。

本来自己同一性なんてものは人間、せいぜいキャラクターなど人格を有するものにつく単語であり、コトにつくものでは決してない。
けど、2021年の合成音声音楽の動向を見ていると、どうしても歌うことそのものや、歌われた音楽にまでこの単語の概念を見出したくなる自分がいる。というわけで、こんなタイトルにしたのですが、果たして伝わるものになっておりますでしょうかね?